2018年4月の宅地建物取引業法の改正により、買主と売主に対してインスペクション制度の説明と希望に応じた斡旋を行うことが義務化されました。
日本国内で住宅インスペクションが広まったのは2000年代に入ってからですが、広く普及しているとはいえない現状です。しかしその一方で、欧米では古くから住宅インスペクションが存在しており、アメリカでは不動産取引の7~8割で利用されています。
日本でも住宅インスペクションの導入が義務化されましたが、依然として周知の存在ではなく、言葉は聞いたことがあるけど意味や必要性については詳しく知らないという方が多いでしょう。
これから不動産の購入や売却を検討している方は、住宅インスペクションは必ず押さえておくべき重要なものです。この記事でわかりやすく基本概要とメリットデメリットを解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
そもそも住宅インスペクションとは
住宅インスペクションは日本語にすると「住宅診断」という意味です。
国土交通省は、中古住宅市場活性化のために取り組むべき施策として住宅インスペクションの普及を挙げています。不動産の売買を円滑に遂行させるための重要事項でありながら、認知度が低い住宅インスペクションとは一体どのようなものなのでしょうか。
以下の項目では、住宅インスペクションとは何なのかを詳しく説明していきます。
建物の点検と調査
わかりやすく説明すると、住宅インスペクションは建物の医者です。
ホームインスペクター(住宅診断士)が専門家の見地から建物の点検と調査を行い、依頼主へ適切なアドバイスを行います。ようするに、既存住宅で発生している不具合の原因を調査し、劣化具合を調べる作業をプロが行うというわけです。
- 劣化状況
- 改修すべき箇所
- 欠陥の有無
現在どこかに不具合はないか、劣化状況はどうなっているか、改修すべき箇所はあるかなどを調べたうえで、おおよその費用相場を算出してくれます。
住宅インスペクションは第三者の立場から住宅に関するアドバイスをしてくれるので、買主や売主に対する忖度がありません。
買主は住宅インスペクションの結果を聞きながら、住宅の購入を検討できるというわけです。
ちなみに、住宅インスペクションを行うホームインスペクターの調査方法は、目視・打診・計測・触診です。そのため、目視不可の場所は劣化や欠陥を見つけにくいというリスクがあることを理解しておきましょう。
依頼する目的
建物を売りたい人、買いたい人の双方が住宅インスペクションを依頼できます。目的は売主と買主で異なりますが、主に以下の点が挙げられます。
- 住宅を購入する時の判断材料にするため
- 住宅を売却する時に適切な情報を開示するため
- 補修箇所を正確に把握するため
買主が依頼する目的は購入時の判断材料にするためです。どれくらい劣化しているのか、補修にかかる費用が許容範囲内かを正確に知るためには、住宅インスペクションでプロに見てもらう必要があります。
売主は、中古住宅を売却する時の情報開示と販売促進のために依頼します。改修すべき箇所がない劣化の少ない住宅であることをアピールできれば、買主の購買意欲を促進することができるでしょう。
義務化されている内容
冒頭で住宅インスペクションが法律により義務化されたと説明しましたが、その対象になっているのは中古住宅のみです。
今までは中古住宅を購入する際は自分で物件の劣化状況などを見極める必要がありましたので、購入後の劣化や欠陥の発見がトラブルの原因になることもありました。
住宅インスペクションを義務化することで取引の透明性を高め、買主が安心して物件を購入できるようになります。これにより、中古住宅の売買件数を増やし市場を活発化させることが国の目的です。
しかし、ここで勘違いしてはいけないのが、義務化されているのは住宅インスペクションの実施ではないという点です。不動産業者が中古住宅を販売する際に義務付けられているのは、住宅インスペクションに関する以下の3点です。
- 住宅インスペクションについて説明しなければいけない
- すでに実施している場合は調査結果を説明しなければいけない
- 買主と売主が建物の状況を書面で確認しなければいけない
不動産業者と媒介契約を結ぶ際には、必ず住宅インスペクションを実施する方を斡旋するかどうかを確認されます。また、重要事項説明の際に、住宅インスペクションの実施有無や調査結果の概要を報告しなければいけません。
これらは今まで義務ではなかったので、中古住宅を購入する時に住宅インスペクションの存在があることさえ知らなかったという方も多くいます。
しかし、現在は上記の通り義務化されているため、中古住宅を購入する際に少しでも不安な気持ちがある方は、専門家からのアドバイスを聞きながら安心して物件の購入を検討できるのです。
住宅インスペクションを実施するメリット
ここからは、買主と売主の目線から住宅インスペクションを実施するメリットを紹介していきます。
買主目線
買主が住宅インスペクションを実施するメリットは、中古住宅を購入する際の判断材料にできるという点です。
専門家が第三者の立場からアドバイスをしてくれるため、問題点を見つけることができるだけではなく、その補修にはどれ位の費用が必要なのかまでわかります。
また、住宅インスペクションにより売りに出されている中古住宅の値段が妥当かどうかも判断できます。
住宅インスペクションの結果が良ければ安心して購入することができますし、悪ければ購入を再検討できます。
それだけではなく、補修が必要な箇所に関してはリフォームの計画を事前に考えることができるなど、問題点を解決するための準備も早く開始できます。
そもそも住宅インスペクションは、買主と売主が安心して取引できるようにするというのが目的です。
購入後のトラブルを避けられるという意味でも、購入前に適切な住宅インスペクションを実施するのは大きなメリットを享受できるでしょう。
売主目線
売主が住宅インスペクションを実施するメリットは、買主からの信頼度を高めてスムーズな売却を実現できる点です。
中古物件の購入を考えている買主は、不良物件ではないだろうか、素人ではわからない箇所に劣化や損傷はないだろうか、値段が相場より高くないだろうか…このようにさまざまな不安を抱えています。
買主の購買意欲を促進させるためには、売りに出している物件の信頼度を上げる必要があります。
住宅インスペクションは第三者の立場から専門家が点検してくれるものなので、調査結果の信用度は抜群です。
買主が抱えている不安を少しでも解消させるため、または売りに出している値段を相場と合わせるためにも、事前に住宅インスペクションを実施して点検してもらいましょう。
また、点検することで事前に修理しなければいけない箇所も見つかりますので、より住宅をきれいにした状態で売却活動を進めることが可能になります。
住宅インスペクションを実施するデメリット
続いては、買主と売主の目線から住宅インスペクションを実施するデメリットを紹介していきます。
買主目線
買主が住宅インスペクションを実施するデメリットとして忘れてはいけないのが、費用の問題です。
住宅インスペクションの費用は業者により異なりますが、一般的な相場は戸建てで7~10万円、マンションで4~6万円です。
そもそも住宅インスペクションは住宅を購入する前に必ず実施しなければいけないものではありませんので、それを考えると費用負担は決して軽いものではありません。
また、住宅インスペクションの作業は基本的に目視で行いますので、目で見えない部分に関しては瑕疵が不明です。そのため、住宅インスペクションを実施したとしても100%不具合がないと断言することはできないというリスクも覚えておきましょう。
売主目線
売主が住宅インスペクションを実施するデメリットは、調査結果によっては支出が増えたり売却価格が値引きされる可能性がある点です。
売りに出している物件をきちんと調査することで買主の信頼度は強くなりますが、点検で発覚した欠陥や劣化などは補修対応を求められるケースがあります。
補修工事が大掛かりになる、または手がつけられない状態であれば値引き交渉を持ちかけられたり、最悪の場合は買主が離れてしまうこともあるでしょう。
売却前に瑕疵が発見された場合は、ほとんどのケースでその補修費用は売主負担です。
インスペクションを実施したことで購入後のトラブルを避けることができたというメリットとして考えることもできますが、逆をいえば実施しなければ高額な補修費用を払う必要はなかったともいえます。
住宅インスペクションを実施することで買主との信頼関係が強くなり売りやすくはなりますが、買主が離れる重大な瑕疵が見つかることもあるというリスクを忘れてはいけません。
また、住宅インスペクションは調査費用と時間がかかります。業者により異なりますが一般的には2週間程度の時間が必要なので、費用と時間がかかるというのも売主側のデメリットとして挙げることができるでしょう。
まとめ
住宅インスペクションの基本概要と、点検を実施するメリットとデメリットを買主と売主目線で解説してきましたが、参考になりましたか?
中古住宅の売買が頻繁に行われている諸外国では常識的な住宅インスペクションですが、日本ではまだ広く普及しているわけではありません。
しかし、中古住宅に関しては住宅インスペクションの説明が義務化されており、国を挙げて普及活動に取り組んでいるため、今後は多くの方が利用することが予想されています。
買主と売主が安心して住宅を売買できる住宅インスペクションは、メリットとデメリットを把握したうえでぜひ検討してください。
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